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REI雑文工房内の雑記用blog。日記や散文、ゲームレビュー、掌編小説等を中心に活動中。2008.2/4設置
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リハビリの意味を込めて、久しぶりにリトバスSSを書いてみた。
あー、今年に入ってからリトバスSS情報サイトに全然足を運んでいない(ぇ
これでいいのか、にわかリトバスSS作家REIよ…orz


「残心」

グランドフィナーレ後、謙吾と古式のお話。
本来は、古式考察SS「きみに捧ぐ証」のエピローグ的なお話になるハズだったのですが、大人の事情で急遽別作として書き起こしましたー。
やりたかったことは、えりくらさんという方の、リトバス草SS大会出品作品「下弦の月」。
シチュエーションはほとんど同じという、「何コレ、パクリやんっ!」としか言いようのない内容なのですが、ゴメンなさいっ、書きたいものは書きたかったんですっ!
ただ、方向性は180度違うものになっているハズですので、どーかお許しくださいっ

注意:このSSには、リトバスのネタバレ成分が含まれています。
    リトバス未プレイ、もしくはグランドフィナーレに到達していない方の閲覧は、
    自己責任で宜しくお願いいたします、まる。



 射放ちて

    肘に残れる心こそ

         後の澄ましのその一つなれ


                                                      「弓道教本」巻之四 




「残心」


 白木綿の筒袖に、紺の袴。弓道衣に袖を通すのは、果たしてどれほどぶりだっただろうか。
 古式みゆきは、一瞬だけ懐かしいという感慨に身を震わせ、そして唇を結んだ。
 懐かしいもなにもない。去年までは、毎日のように袖を通していた。眼を病み、弓の道が閉ざされたあの日まで、毎日のように。
 それは、古式にとって“すべて”だった。
「―――っ」
 込み上げてくる激情を、理不尽な現実への恨みを、遣る瀬無いすべての想いを、飲み込む。
 一息で。
「古式」
 男の声が、更衣室の外から聞こえる。
「準備は、できたのか?」
 外で、彼が待っている。
 この日を用意してくれた彼が。
 たった一度の、最後の我侭を聞き入れてくれた彼が。
 宮沢謙吾が、待っている。
 帯を締め、みゆきは静かに顔を上げた。
「―――はい」
 そして、答えた。


 更衣室から出てきたみゆきの顔を見て、謙吾は思わず息を呑んだ。
 右目には、悲劇を象徴しているかのような、白く大きな眼帯。 
 けれど、残された左目には、そんな悲劇に飲まれた悲愴の色は見えなかった。
 この数ヶ月、謙吾が見ることのできなかったもの。
 凛とした、澄んだ瞳。
 ただ28m先の的を射るためだけに、真っ直ぐ研ぎ澄まされたような。
 そんな彼女の面持ちに、謙吾は懐かしさを感じた。
 ―――ああ、弓を射る時の彼女の眼だ、と。
 今の彼女の瞳に映る28m先の光景がどのようなものか、謙吾に推し量ることはできない。
 けれどみゆきは、確かに“28m先の的”を見据えていた。
「よろしくお願いします、宮沢さん」
「……ああ。学校側にも、弓道部にも話は通してある」
「すみませんでした。本来なら、私が直接お願いしに行かなければならないことなのに」
「いや、構わんさ。……だから、」
 気が済むまで、弓を引けばいい。
 その言葉を、謙吾は飲み込む。
 もっと、気の利いた言葉はないのか。僅かな時間、逡巡して、
「―――悔いが、残らないように、な」
 出てきた言葉が、それだった。
 僅かに震える謙吾の声に、みゆきは気付いていた。
「大丈夫です」
 みゆきは小さく、本当に小さく、笑う。
 自嘲でも、嘲笑でもなく。
「弓を引くのは、これが最後。この、一回限りですから」
 小さく、微笑むような。
「悔いなんて、残したりなんかしませんよ」
 達観にも似た、そんな笑みを浮かべたのだった。


 ―――もう一度、弓を引きたい。
 みゆきの口から、そんなことが語られるなんて夢にも思っていなかった謙吾は、その時、思わず口を開けたまま言葉を失ってしまった。
 もう一度弓道がやりたい。視力を失ったからといって、弓を手放すのは嫌だ。
 そんな話でないことは、みゆきの表情からすぐに察しがついた。
 これは、けじめのようなものだ。
 あるいは、儀式。
 弓がすべてだったかつての自分自身と決別し、次へ進むためには避けて通れない、通過儀礼のようなものだと、謙吾は思い至った。
 弓道場の使用許可を取るのは簡単だった。
 恭介に相談するまでもなく、弓道部の主将に「古式が弓を引きたがっている」と伝えただけで、すんなりと許可を貰えた。
 同じく武道を嗜む者だからだろうか。
 もう二度と弓を引くことのできなくなった人間が、最後に弓を引きたいと願い出ることの意味を、察してくれたのだろう。

 みゆきが弓道場を借りることができたのは、それから三日後。弓道部の練習が終わった後の時間だった。


 道場に立ったみゆきは、静かに息を吐き出した。
 弓を射る前の、静けさの中に満ちた緊迫感。そんな中で、静かに、自分の心を鎮め、無心に、ただ矢を的に当てることだけに集中した時の感覚。
 それらが、決壊したダムのように、記憶の奥底から溢れ出てくる。
 それは記憶の中だけでなく、今、みゆきの目の前に確かにあった。
 神経を済まし、すべてを捨てて、ただ無心に放つ矢に込めるものは、ただ一つ。

 己が、魂。

「―――いきます」

 弓を手にしたみゆきは、静かに射位へと向かった。
 謙吾は答えなかった。
 彼女の呼吸が変わったのを――弓道場の空気が変質したのを、肌で感じ取ったからだ。

 これが、彼女の最後の八節になる。
 それを妨げることなんて、この地球上の、誰一人として許されることではない。


 射法八節。
 射の基本動作は、八節に分けて説明することができる。


 足踏み。
 射位に立ち、的に向かって両足を踏み開く。

 何千、何万、何十万回と繰り返した動作。
 だからこそ感じる、違和感。
 的が、ずれている。
 自分の立つ位置の、正面にあるはずの的が、斜め先にあるように見えてしまう。
 それどころか、距離感もつかめない。
 あの的は、本当に28m先にあるものなのだろうか?
 もっと、近いような気がする。
 いいや、ひょっとしたら遠くにあるのか……この弓道場は、いつから遠的場になったのか。
 遠近感も、でたらめだった。

 ―――すべては、とっくに覚悟していたことのはずだった。
 片目の視力を失い、弓が引けなくなるとはどういうことか。
 今日までの日常生活の中でも、手元の缶を倒してしまったり、遠くを飛ぶものが近くを飛んでいるように見えてしまったり、狂った遠近感による不自由を、嫌というほど感じていたではないか。
 弓を引く。
 的に矢を的中させるために、弓を引く。
 それが叶わないということ。
 弓が、引けないということ。

 古式みゆきは考えるのをやめた。
 声が、聞こえたからだ。
「古式」、と。
 ただ、一言。
 自分の名を呼ぶ声が。
 それが、スイッチになった。
 みゆきは、弓の世界に入った。
 自分自身と、弓と、矢と、的。
 それらすべてを世界から剥離して、一体となったかのような、瞬間。
 外の世界の雑音は、一切届かない。
 だから、みゆきの名前に続いたはずの謙吾の台詞も、みゆきには届いていない。


 胴作り。
 足踏みで開いた両脚に、上体を安静に置く構え。

 覚えている。
 届くことのない的は歪んでいても、心の中に描いた、何年も見据え続けた的だけは、決して歪むことなくあり続けているから。


 弓構え。
 矢をつがえて弓を引く前に行う、ほんの僅かな準備動作。

 覚えている。
 弓がすべてだった、あの頃を。
 弓を引くことしか知らない自分が嫌いだったことを。
 弓を引くだけでしか自分の存在を肯定できなかったことを。
 いつしか周囲の期待が重荷になっていたことを。
 親や周囲の期待に応えるために弓を引き、いつの間にか自分の存在意義が“弓を射ること”だけになってしまった日々のことを。
 その弓を失い、自分の生きる意味も同時に失ったあの日のことを。


 打ち起し。
 弓と矢を持った両の拳を、弓矢共々垂直に持ち上げる。

 覚えている。
 弓を引けなくなった、あの日のことを。
 確かに、絶望した。生きる意味を失って、自暴自棄になったことを。
 だけど。
 最初の眼の手術が終わり、結果が失敗だと知らされ、もう弓を引くことができなくなったと自覚したあの瞬間。
 みゆきは、確かに吐き出していた。
 安堵の、吐息を。


 引分け。
 持ち上げた弓と矢を、弓を押し弦を引きながら降ろしていく。

 覚えている。
 弓が引けなくなり、もう、周囲の期待に応えなくてもいいと解かったあのとき。
 肩の力が、背負っていた重荷が、綺麗に抜け落ちたのを。
 そして、みゆきは泣いた。
 自分が、そうして無理をして弓を引き続けていたことを知って。
 そして、安心してしまった自分に対して、心の底から湧き上がって来た、あの怒りを。
 そして、もう弓を射ることはできないのだという、悲しみを。

 無理をして弓を引いてきた。
 いつの間にか、自分の存在はすべて弓を引くためだけにあった。

 それを、失って初めて知った。

 そして。

 それを上回る怒りと悲しみを、みゆきは押さえきれずにいた。
 弓は自分のすべて。自分の価値は弓で決まる。だから、無理をして弓を引いてきた。
 けれど。
 そんな些細なことなんか、関係ないくらいに。


 古式みゆきという少女は、弓が好きだった―――。


 会。
 弓を引き切る。矢の先は、ただ的だけを狙っている―――。

 告げよう。

 今、自分のすべてに別れを告げよう。

 この矢に込めるは、自分自身の魂だ。 

 矢が、たとえ的に届かなくても。

 逸れてしまったとしても。

 悔いの残らないように。

 弓に捧げてきた、すべての努力と時間と重圧を。

 今、ここに還そう。


 離れ。
 そして、矢は放たれる。

「―――さようなら」

 無意識のうちに、そんな言葉が口からこぼれていた。
 

 そして、残心。
 矢が放たれた後の、一呼吸。
 これの良し悪しで射全体の完成度や品格が判別できるという、矢を放ったままの姿勢で迎える射の総決算。

 的に当たる、という確信は無かった。
 みゆきは既に目を捨てて、視覚以外の感覚だけで、弓を射っていた。
 今までの経験と、何度も射ってきたその感覚だけを頼りに、矢を放った。

 矢は、的を大きく逸れて、安土に刺さっていた。

 みゆきはゆっくりと弓を降ろし、静かに視線を戻すと足を閉じた。
「―――外して、しまいましたね」
 振り返ったみゆきの顔は、弓道家として研ぎ澄まされていた先ほどまでのものとは打って変わり、歳相応の、少女のそれだった。
 片方の瞳から、ぽろぽろ、ぽろぽろと涙を零しながら、それでも気丈に笑おうとしている、強く、そして弱い少女の顔だった。
 みゆきは、泣いた。
 声を出さず、嗚咽すら、零さず。
 静かに。
 静かに。


「射放ちて 肘に残れる心こそ 後の澄ましのその一つなれ」
 着替えを終え、寮に戻る帰路の途中。みゆきは、歌を詠った。
「なんだ? それは」
「弓道教本に載っている、76首の弓道教歌のうちの一つです。八節の、残心を詠ったものなんですよ」
「……そうか」
 謙吾は相槌を打つ。
 相変わらず、気の聞いた言葉の一つも浮かびはしないが、最近はそれでも構わないと謙吾は思うようになった。
 剣しか知らず、弓しか知らず。
 どこまでも不器用な二人なのだから、このくらいが丁度いい。
「今までは、残心はその射の最後に行う反省のようなもので、肘に残ったその心を、次の射に活かせという教えだと思っていました」
「今は、違うのか?」
「……いいえ。今も、同じ意味だと思います」
「なら、何故?」
「最期の射を終えて、違う捉え方ができるようになった気がするんです」

 射放ちて 肘に残れる心こそ 後の澄ましのその一つなれ

 射を終えて、その腕に残った想いは、後の糧の一つとなるだろう。
 みゆきにとっての後は、もう弓道ではない。
「私は、弓が好きでした」
「……ああ」
「弓を射た後の残心で、的中させた時に込み上げてくる思いが、私は大好きでした」
「そう、か」
「あの瞬間は、もう二度と味わえない。代わりのものなんて、見つからないかもしれません。けれど、それは今でも私の心に残っています。弓を射ってきたことは、無駄ではなかった。弓を引けなくなった私にも、こうして残るものがあった。……今は、そう信じることができます」
 みゆきは、その輝いた瞬間の残滓だけを抱えて、この先の長い人生を生きていくのだろうか。
 もっとも輝いた瞬間を、生涯忘れずに生きるみゆきの左目に、その人生は色褪せて映りはしないだろうか。
「―――古式」
 気が付いたら、謙吾はみゆきに手を伸ばしていた。
 そんな自分の姿が、大昔の恭介や、つい最近、あったかもしれない理樹の姿に重なって見えた。
 自分に、できるだろうか。
 かつては、できなかった。
 一人で足掻こうとして、結局失敗して、そして失いかけた。
 今度こそ、できるだろうか。
 古式を、連れ出すことができるだろうか。
 あの日、あの時。
 恭介が、自分を外の世界に連れ出してくれたように。
 いつか、どこかで。
 理樹が、すべてを乗り越えて恭介を救ったように。

「……」
 みゆきは、謙吾の手のひらをじっと見つめ、そして、ゆっくりと手を伸ばした。
「―――古式?」
 謙吾の手のひらを掴むその直前で、みゆきの手が止まった。
「約束、してくれますか?」
 みゆきは、小さく、細い声で、言った。
「これから先は、楽しいことだけが待っているって」
「……」
「辛いことは、何一つないって」
「それは、約束できない」
「そう、ですか……」
「辛いことも、悲しいことも、この先待ち構えているだろう」
 みゆきは、俯かない。
 それは、みゆきが一番よく知っていることだったからだ。
 同時に、謙吾の台詞に、その先があると知っているからだ。
「だが、努力はする」
「努力、ですか」
「ああ」
「宮沢さんらしいですね」
「そう、か?」
「ええ。わざわざ、重荷を背負おうとしています」
「……そうだな。だが、重荷を背負うことには慣れているつもりだ」
「そう、ですね……。お互いに」
「ああ」
 宮澤剣術道場の跡取り息子として。
 弓道部の期待のホープとして。
 周囲の期待に応えようと、重荷を背負い続けてきた二人だ。
「宮沢さん。私は重いですよ?」
「ああ。だがな、古式。一人で背負いきれない荷物があったとしても」
 謙吾は、静かに目を閉じた。
 そして、謙吾は。
「みんなで背負えば、いいじゃないか」
 それを迷惑と思わずに手伝ってくれるだろう仲間を誇るように、言った。
 その答えに辿り着くまで、ずいぶんと遠回りをしてしまったように思う。
 けれど。
 今度こそは、間違えずに辿り着きたい。

 みゆきは、小さく微笑んだ。
 その微笑は、何を意味していたのだろうか。
 それは、今は分からない。
 けれど。
 謙吾の手に、みゆきの手が重なった。
 それが、答えだった。

「ようこそ、リトルバスターズへ」

 すぐには、無理だろう。
 けれど、少しずつでもいい。
 古式の力になれればいい。
 古式が、笑うようになればいい。
 今は、それで十分だと、謙吾は思った。
  


        END

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Comment
お邪魔します
 すみません、まさか他のリトバスSS書きさんの雑記で自分の名前が挙げられてるとは思いもしなかったため、衝動的にお邪魔してしまいました。はじめまして、えりくらと申しますです、はい(汗
 で、で、REIさんの「残心」、読ませていただきました。む、確かに、シチュエーション等々は結構かぶってる感じ。でもREIさんも仰られているように、方向性は真逆ですね。こちらの方がトゥルーエンドっぽい(笑) 僕の「下弦の月」は凄くバッドエンドなんで、なんといいますか、すみませんという感じなんですけど(笑)
 結局の所、謙吾が古式に手を差し伸べられるかどうか、という気がしています。僕の所の謙吾はまだゲーム本編前の謙吾で、苦しんでいる古式を助けてやることが出来ませんでした。それがきっと後々の謙吾の後悔へ繋がっていくんだと思うんですけど。
 「残心」の謙吾はそれとは対照的に、苦しむ古式に手を差し伸べました。それは本編の後に謙吾が獲得した強さなんでしょうね。読後感も爽やかで、すごく良いSSでした。
 あと、八節についてはこちらの方が詳しく解説されてて、非常に読者に優しいと思いました。僕のは容量的な問題で、全て省いてしまったんでアレなんですけど(汗

 長文になってしまい失礼しました。これ以後ちょくちょく寄らせていただきますね♪
 えりくらでしたー!
えりくら URL 2008/04/05(Sat)19:54:49 編集
あわわわわww
えりくらさん、ようこそいらっしゃいませ~

まさか、SS情報サイトに登録する前にえりくらさんご本人がいらっしゃるとは思わず粗茶すら用意できないありさまではありまするが~、まぁ寛いでいってくださいな(いっぱいいっぱいww

えー、まずは謝罪をば。
えりくらさんの了承も取らずにサイトへのリンク&シチュエーションかぶりなSSの発表、誠に申し訳ありませんでした。
人によっては大変不快に思われる方もいらっしゃるので、配慮に欠けていたと反省していますが、えりくらさんが心の広い方で本当に安堵しております。ありがとうございました!

そしてblog「工房帳」の初コメントありがとうございました!(さり気なくえりくらさんのコメントが初だったりするww
新生活の忙しさ&ドンガメのような更新速度ゆえ、まともな活動ができるかどうか怪しいところですが、これからもよろしくお願いいたします~。
ではっ!
REI 2008/04/07(Mon)21:03:12 編集
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